伊坂幸太郎『重力ピエロ』

重力ピエロ


「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」本書の中で、登場するセリフである。
このセリフが、この物語の根幹を表しているといっていい。おそらく、伊坂幸太郎にとって最も書きたい1行はこれではなかったか、そう私は推測する。そして、もっとも伝えたいメッセージで、1つの小説を書ききるというとてつもない偉業に作者は成功したのだ。

本書には、とてつもなく重いテーマがある。それは少年犯罪、レイプである。この小説が発表された当時は、少年犯罪がにわかに注目を集めた時期であった。光市の母子殺害事件などは、私の記憶にも強烈に残っている。
少年法の不備、被害者の人権無視など、少年犯罪には、答えのない問が山積みだ。どんなに話し合っても解決することがないだけに、ともすれば、口を紡ぐ態度を多くに人がとるようになるだろう。われ関せず、私は知らないよ、と。

しかし作者は違う。たとえ、答えのない問いであっても自分の頭でしっかり考えることが重要であると説き、それを実践して見せた。この姿勢には、どんなに敬意を払ってもたりないのではないか。
伊坂作品を思い浮かべると、スタイリッシュ、軽妙、ユーモア、エンターテイメントなどの言葉が浮かぶ。しかしその背後にあるメッセージや作者の思想は強靭そのものである。伊坂氏は音楽や映画が好きで、よく引用される。音楽では、ジャズとパンクが好きだという。ジャズとパンク。そう、伊坂作品にはジャズとパンクのように、読者の心を躍らせ、リラックスさせるとともに、読む者の魂を揺さぶる愚直なメッセージも存在しているのだ。

さて、私のお気に入りの箇所をいくつか記しておこう。
「人生は、1箱のマッチに似ている。重大に扱うのは莫迦々々しいが、重大に扱わなければ危険である。」これは芥川龍之介の小説からの引用で、己の出生と境遇になやむ主人公、春の心情を見事にあらわしている。
「俺は社会よりも、俺の家族のほうが大事なんだ」「ひどい人間だ」「その通りだ」これは、主人公、泉水と父の間で交わされるやり取りである。法律や道徳などと社会の上段から放たれる正論を丸呑みする人を伊坂氏はよく思わない。それは本当に自分で考えた結果で自分の意思なのかと読者に問いかける。自分にも問いかけているに違いない。だって、人は、矛盾しているものでしょ、と。
「ペニスの味わう、たった9秒の絶頂感が、子に60年の苦痛を強いる」ギャスパー・ノエという監督の映画作品らしい。この作者は、どこでそんなの知ったんだ?と思うくらい物知りに思える。
「お前は、俺に隠れて、大事なことをやった。そうだろ?」「お前は俺に似て、嘘が下手だ」放火、殺人を犯した春に対して病室の父が言う言葉。遺伝、血のつながり、そいったものを父は軽々と飛び越えてしまったと泉水が思うように、父の言葉は深く強く温かい。「お前は俺に似て、嘘が下手だ」泣けてくる。
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